前回の「備品破損編」に続いて、今回はホスト業を営む私たちを悩ませるもう一つの大きな試練についてお話ししたいと思います。それは、季節を問わずどこからともなく現れる「自称インフルエンサー」という名の不思議な生き物たちです。

突然現れる謎の使者たち
夏の軽井沢。お盆の最もハイシーズンで予約が埋まり、ホッと一息ついている時でした。メールボックスを開くと、そこには見慣れない差出人からのメッセージが。
「はじめまして。私はインフルエンサーをしております。3万人のフォロワーがおり、宣伝効果が期待できますので、無償で宿泊させていただけないでしょうか。お盆の期間でお願いします。今回は有償でなくても大丈夫です」
…え?「有償でなくても大丈夫」って、まさか私たちがお金を払って泊まってもらうのが当たり前だと思っているのでしょうか?
こうして、私たちホストが直面する「インフルエンサー問題」の扉が開かれたのでした。
匿名という名の勇者たち
さらに驚いたのは、このようなお問い合わせのほとんどが「匿名」で届くことです。本名も名乗らず、どこの誰だかもわからない状態で「無償で泊めろ」と要求してくるのです。もちろん、フォロワー数が多いと自称しているSNSアカウントのリンクすらありません。
思わず画面の前で突っ込みました。「匿名で依頼するくらいなら、最初からやめればいいのに!」
きっと、「無償宿泊を要求しているなんてダサい」「身勝手な内容を送っている」なんて自分の情けない姿がSNSでバレたら恥ずかしいからでしょうね。でも、そこまで恥ずかしいと思うなら最初からやらなければいいのに…。
まるで正体を隠した怪盗のように現れては、図々しい要求を残して去っていく。そんな謎の存在に、私たちはただ困惑するばかりでした。
インフルエンサーマーケティングの現実
実は私、以前の仕事でインフルエンサーマーケティングに携わったことがあります。断言しますが、数万人フォロワーレベルの方の投稿で、宿泊施設に大きな集客効果が期待できることはまずありません。
もちろん、私たちが積極的にマーケティング戦略として有名人やインフルエンサーの方にお声がけし、費用をお支払いして宣伝していただくのであれば、それは正当なビジネスです。
しかし、向こうから名前も明かさず無償宿泊を求めてくる行為は…率直に申し上げて、どのような価値交換が成り立っているのか理解に苦しみます。
世界共通の悩み?海外でも横行するインフルエンサー問題
実は、この手のトラブルは日本だけの問題ではありません。海外でも「PRするから宿泊費をタダにして」と要求するインフルエンサーに宿泊施設が辟易しているという報告が相次いでいます。
アイルランドの事例:炎上したホテルの反撃
アイルランドのホテル「The White Moose Cafe」では、イギリス人YouTuberから「インフルエンサーなのでPRするのでタダで宿泊させてほしい」という依頼を受けて大炎上しました。ホテル側は「あなたをタダで泊めた時に誰が清掃費用やホテルスタッフの人件費を払うのか?」とこれを公開し、世界中でインフルエンサーの身勝手な要求に対する議論が巻き起こりました。
日本でも横行する「無料宿泊」
日本のホテルプロデューサーは実体験として、「宿泊料を前払いして、投稿したら全額返金」という提案をすると、なぜかインフルエンサーからの返信がパッタリと来なくなる現象を報告しています。つまり、本当に投稿する気がないということの裏返しですね。
ロンドンのケーキ屋も同じ被害
ロンドンのケーキ屋さんも、「PRするからタダにして」というインフルエンサーからの依頼にうんざりしているという記事もありました。どうやら食べ物でも宿泊でも、「タダにしろ攻撃」は世界共通のようです。
やはり、世界のどこでも同じような「勘違いインフルエンサー問題」が発生しているようです。私たちだけが特別なわけではないと知って、少し安心しました。
テレビ局という名の新たな刺客
インフルエンサーの次に現れたのは、今度はテレビ局からの連絡でした。
「一棟貸しで大人数が泊まれるとのことで、テレビ企画のパーティーに使いたいと思います。まだ複数の施設を検討中ですが、とりあえず○月○日から○日まで空けて押さえておいてください」
…はい?お金も払わずに日程を押さえろと?しかも「パーティー」って言いましたよね?
パーティー禁止は世界の常識
ここで改めて申し上げますが、一棟貸し施設でのパーティーは完全禁止です。
Airbnbは2022年6月に、世界中のすべての宿泊施設でパーティーやイベントを恒久的に禁止すると正式に発表しました。これは、近隣住民への迷惑行為が社会問題となったからです。
レンタルバケーションといっても、森の中にポツンと一軒家があるなんて稀なケース。ほとんどの施設は住宅街や別荘地にあり、地域の皆さんと共存しているのです。
そして、料金もお支払いにならない状態で「○月○日から○日まで空けておいてください」とは、宿泊施設にとって大きな機会損失となってしまいます。お盆やGWなどの繁忙期であれば、その損失は計り知れません。
インフルエンサーの無償要求も驚きでしたが、テレビ局の常識外れな要求にはもう言葉を失いました。
成長を続けるトライハク – 会社設立と3棟目のオープン
そんなトラブル続きの中でも、私たちは前向きに事業を展開し続けています。運営を始めて3年が経ち、ついに株式会社トライハクを設立いたしました!
経験を積み重ねた結果、今では様々なトラブルにも冷静に対処できるようになりました。そして何より、本当に素晴らしいゲストの皆様に支えられていることを実感しています。
そしてこの度、2025年8月1日に待望の3棟目となる「トライハク軽井沢神楽(かぐら)」がオープンいたします!


神楽の魅力的な特長:
- プライベートドッグラン完備 – ワンちゃんたちが思いっきり走り回れる専用スペース
- 大きな造作バス – 旅の疲れをゆっくり癒やせる贅沢なバスタイム
- 本格サウナ – 軽井沢の自然の中で「ととのう」極上体験を
- 広いタイルデッキ – バーベキューを楽しみながら家族や友人との時間を満喫
- ワンちゃんトリミング室 – 室内で快適にワンちゃんを綺麗にできる専用設備
トライハクは、宿泊ルールを守ってご滞在いただいているロイヤルカスタマーの皆様を大切にしたく、インフルエンサーやテレビ局の皆様、無償宿泊のお問い合わせはご遠慮くださいね(笑)。
詳しくはトライハクの公式サイトをご覧ください。
おわりに
ホスト業界には、備品破損問題に続いて「勘違いインフルエンサー問題」という新たな試練があることを、この3年間で痛感しました。
開業したばかりの新米ホストの方は、「フォロワーが◯万人もいるなんてすごい!ぜひ泊まってもらおう」なんて思ってしまうかもしれません。お気持ちはよくわかりますが、冷静になって判断していただければと思います。
誤解のないように申し上げておきますが、インフルエンサーマーケティング自体を否定するわけではありません。
宿泊施設にとって、インフルエンサーやテレビ局に宣伝してもらうのはマーケティング手法として一般的なことです。インフルエンサー側の立場からしても、自分の影響力を使用して宣伝するのですから、見返りを求めることは当然とも言えるでしょう。私たちも今後、施設側からインフルエンサーへ案件を依頼する可能性だってあります。
ただ、それでも避けるべきは、「匿名」で自己紹介もなく、おそらく軽井沢のお盆のベストシーズンに「ダメ元」でいろいろな宿泊施設に「無料で泊まらせて」メールを一斉送信している自称インフルエンサーです。
こうした輩に振り回されることなく、きちんとルールを守って楽しんでくださる素晴らしいゲストの皆様のために、私たちは今日も営業を続けていきます。
次回の「ホストはつらいよ」では、一体どんな珍事件が待ち受けているのでしょうか…?
【トライハク軽井沢神楽(かぐら) 8月1日オープン!】
詳細・ご予約は → https://tryhaku.airhost.co/ja/houses/692098
この記事は実体験に基づいていますが、インフルエンサーやテレビ関係者の皆様を一律に批判するものではなく、一部の方に対しての記事です。基本的には、素晴らしい情報発信をされている方々がほとんどだと認識しております。
参考にした文献やサイト
- 「PRするからタダにして」にうんざり。ロンドンのケーキ屋、インフルエンサー拒む4つの理由 HUFFPOST, 濵田理央(Rio Hamada),2020年10月17日 15時12分
- YouTuber、ホテルに「無料で泊めて」依頼で炎上!インフルエンサーの業界あるある? exciteニュース, 佐藤尚, 2018年01月25日
- Airbnb、周囲に迷惑をかけるようなパーティー利用の禁止を成文化 Airbnb · 2022年7月7日
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