犬は生肉を食べれるのか?

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犬に生肉を与えても大丈夫?

スーパーで買った生肉を、調理前に犬が誤って食べてしまったら、お腹を壊したり、病気になってしまうんじゃないかと心配になりますよね。

結論から言ってしまうと、犬が生肉を食べても基本的には問題ありません。

それどころか、欧米では、ペットの犬や猫に生食を与えることへの関心がますます高まっています。

私にかかれば牛肉は吸えます

RMBDとBARF

海外では、生肉をベースとした食事をRMBD(Raw meat based diet 生肉中心の食事)やBARF(Biologically appropriate raw food 生物学的に適切な生食)と呼んでいます。

アメリカとカナダでは、ブリーダーの3分の1が犬の食事に生肉や骨を使用しています。

フィンランドの犬の飼い主1万人以上を対象にした調査では、26.5%の飼い主が生肉ベースの食事を飼い犬に与えていました。

オランダでは、犬の飼い主のなんと60.5%が、全部、または、一部の食事に生肉ベースの食事を与えていると報告されています

日本では、約9割が市販のドライペットフードを利用しており、手作りご飯は十数%6、生肉ベースの食事はさらに少ないと思われます。

日本からすると、欧米で生肉ベースの食事を犬に与えている飼い主が多いことに驚きます。

RMBDの人気の高まり

生肉は、細菌や寄生虫などの衛生面の問題が生じます。そのため、アメリカ動物病院協会やカナダ獣医協会では、RMBDのリスクに対して警告を発しています。

それにもかかわらず、多くの飼い主、ブリーダー、獣医師の間でさえRMBDの人気が高まっている背景には、飼い主の犬に対する健康志向の高まりがあると考えられています。

生肉ベースの食事の人気が高まっている

ペットの嗜好性と活力の向上、歯・骨・皮膚の健康、光沢のある毛並み、ペットにより自然な食事を与えたいという飼い主の希望などが理由です。

しかし、RMBDの健康促進効果は主に経験則に基づくもので、少数の論文しかなく、科学的エビデンスが不十分であることには留意する必要があります。

そして、RMBD人気のもう一つの背景には、ドッグフード業界に対する不信があります。

多数のペットが死亡した2007年のドッグフードメラミン汚染だけでなく、細菌汚染、カビ(アフラトキシン)汚染、プラスチック混入、栄養虚偽表示、産地偽装、チアミン(ビタミンB1欠乏)、亜鉛過剰、ビタミンD過剰など、毎年多くのドッグフードがリコールされている現状があります。

ドッグフードの問題点については、下記のブログもご参照ください。

生肉で犬が攻撃的になる?

ガルルルル!

生肉を与えると犬が血に飢え、野生化して、凶暴になるのではないか?と心配される方もいます。

高タンパク食と低タンパク食が、犬の攻撃性に及ぼす影響を評価した研究があります10 11。その中で、低タンパク食が犬の攻撃性を低下させたと報告されています。

しかし、トリプトファンが追加された飼料で攻撃性が低下したことも報告されています11

トリプトファンは必須アミノ酸の一つで、犬は体内で合成することはできません。トリプトファンは、肉や魚などに多く含まれ、心の安定を保つホルモン「セロトニン」に変化します。

生肉の食事が、犬の性格を攻撃的にしたり、凶暴にしたりすることはありませんし、そのような研究報告もありません。

ペット先進国の欧米では、完全に神話として片付けられています。

犬や猫は問題なく生肉を消化できる

生肉は消化に悪いので、犬や猫には調理したお肉やペットフードを与えるようにしましょう。

そんな情報を目にします。

犬は雑食性のある肉食です。猫は食肉目ネコ科に属する完全な肉食動物です

そんな動物が本当に生肉を消化しにくいのでしょうか?

家猫を対象とした研究では、生肉と加熱した肉とで消化率の差はなく、ペットフードと比較すると生肉の消化率は有意に高かったことが報告されています。

犬は1万5000年以上も、生の肉、魚、卵などを食べています

ペットフードが初めて登場したのは英国で、1860年です。国内では1960年のことで、その歴史は浅く、比較的最近のことです。犬の食歴史から見ても、犬にとって生肉が消化に悪いなんて考えられません

犬の食歴史
生肉
1万5000年以上
ペットフード
160年

犬の歯列、顎は、肉や骨を引き裂き、噛み砕けるように設計されています。腸は短く、胃酸の酸性度は高く、肉を消化するのに最適です。

オオカミと異なり、犬は人との共同生活の過程において、炭水化物の分解に不可欠なアミラーゼという酵素を獲得しました8。しかし、口の中の唾液にはアミラーゼは含まれておらず、雑食性があると言っても、食肉目であることは間違いないわけです。

私が調べた範囲では、生肉が犬の消化に悪いと指摘している専門家はいませんでした。

うんちの量が少なくなる

RMBDでうんちの量が少なくなる
RMBDでうんちの量が少なくなるかも?

生肉は犬本来の食べ物であり、犬科の腸は、生肉を食べ、消化し、吸収できるように設計されています。

野生の犬がうさぎや鳥、昆虫などを食べる時に、焼いて食べたりできませんよね。

生肉を与えると、調理済みの肉と比較して、排泄物の量が少なくなりますが、これは、消化吸収がしっかりと行われているからです。

ちなみに、ドライドッグフードの場合、水分量が10%前後しか含まれていないため、手作り食よりも与える量が少なくなり、便は硬めで少量になります。

下痢をする

フードを生肉に切り替えると、下痢をしてしまうワンちゃんもいます。これは、今までドッグフードや調理済みの肉しか食べてこなかったためです。

ドッグフードは肉や穀物などを粉砕して作られています(それでも、前述した猫の試験では、ペットフードの消化率が生肉より悪かったのは驚きです)。

ドッグフードに慣れていると、生肉の消化に慣れていないため、最初は下痢を起こすかもしれませんが、少しずつ切り替えれば問題ありません。

生肉ベースの食事で、腸内の細菌叢も変化する可能性も示唆されていますので9、最初は変化に慣れさせるために少量から始め、数週間かけて量を増やして行くのが良いでしょう。

水を飲まなくなる

市販のドライフードは水分量が10%程度、生の食事は75%程度含まれています。そのため、ドッグフードからRMBDに変更すると、水を飲む量が少なくなります。

RMBDのリスク

生肉ベースの食事には、細菌や寄生虫、人畜共通感染症などのリスクが伴います。リスクや衛生管理については、またブログでまとめて解説していきます。

参考文献とサイト
  1. Anturaniemi J, Barrouin-Melo SM, Zaldivar-López S, Sinkko H, Hielm-Björkman A. Owners’ perception of acquiring infections through raw pet food: a comprehensive internet-based survey. Vet Rec. 2019 Nov 30;185(21):658. doi: 10.1136/vr.105122. Epub 2019 Aug 19. PMID: 31427409; PMCID: PMC6952838.
  2. 食品安全委員会「寄生虫による食中毒にご注意ください」https://www.fsc.go.jp/sonota/kiseichu_foodpoisoning2.html 最終アクセス2022/07/31
  3. dogs naturally Can Dogs Eat Raw Meat? https://www.dogsnaturallymagazine.com/raw-meat-diet-for-dogs-7-myths-you-wont-believe/ 最終アクセス2022/08/03
  4. Kerr KR, Vester Boler BM, Morris CL, Liu KJ, Swanson KS. Apparent total tract energy and macronutrient digestibility and fecal fermentative end-product concentrations of domestic cats fed extruded, raw beef-based, and cooked beef-based diets. J Anim Sci. 2012 Feb;90(2):515-22. doi: 10.2527/jas.2010-3266. Epub 2011 Oct 14. PMID: 22003235.
  5. Michele Welton’s HONEST ADVICE about dogs, Should Your Dog’s Food Be Raw or Cooked? Pros and Cons. https://www.yourpurebredpuppy.com/health/articles/feeding-raw-vs-cooked-dog-food.html 最終アクセス2022/07/31
  6. 土田あさみ, 山岸真梨子, 増田宏司, 大石孝雄「雑誌に掲載された広告内容からみたドッグフードの変遷」東京農大農学集報, 58(2), 105-109(2013)
  7. 一般社団法人 ペットフード協会「2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査 結果」2021 年 12 月 22 日 https://petfood.or.jp/topics/img/211223.pdf
  8. Axelsson, E., Ratnakumar, A., Arendt, ML. et al. The genomic signature of dog domestication reveals adaptation to a starch-rich diet. Nature 495, 360–364 (2013). https://doi.org/10.1038/nature11837
  9. Butowski CF, Moon CD, Thomas DG, Young W, Bermingham EN. The effects of raw-meat diets on the gastrointestinal microbiota of the cat and dog: a review. N Z Vet J. 2022 Jan;70(1):1-9. doi: 10.1080/00480169.2021.1975586. Epub 2021 Sep 19. PMID: 34463606.
  10. Dodman NH, Reisner I, Shuster L, Rand W, Luescher UA, Robinson I, Houpt KA. Effect of dietary protein content on behavior in dogs. J Am Vet Med Assoc. 1996 Feb 1;208(3):376-9. PMID: 8575968.
  11. DeNapoli JS, Dodman NH, Shuster L, Rand WM, Gross KL. Effect of dietary protein content and tryptophan supplementation on dominance aggression, territorial aggression, and hyperactivity in dogs. J Am Vet Med Assoc. 2000 Aug 15;217(4):504-8. doi: 10.2460/javma.2000.217.504. Erratum in: J Am Vet Med Assoc 2000 Oct 1;217(7):1012. PMID: 10953712.
  12. Templeman JR, Davenport GM, Cant JP, Osborne VR, Shoveller AK. The effect of graded concentrations of dietary tryptophan on canine behavior in response to the approach of a familiar or unfamiliar individual. Can J Vet Res. 2018 Oct;82(4):294-305. PMID: 30363384; PMCID: PMC6168022.
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この記事を書いた人

人間のお医者さん。医学的見地から住宅や犬のことをブログに書いています。ゆずのことになると、お金に糸目をつけない。でもとても倹約家。なにごとも調べないと気がすまない、ネットサーフィンのスペシャリスト。

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